なぜ、子どもたちは覚えなくても競技ができたのか──運動会を支えた「三つの動線」

※記事内に広告を含む可能性があります
※記事内に広告を含む可能性があります
やってみたよ!こんな保育

こんにゃちは、猫月です🐱

前回は、3歳児クラスで取り組んだ「お寿司屋さんごっこ」の運動会をご紹介しました

練習のない運動会は可能か?──3歳児の運動会は「お寿司屋さんごっこ」
「保育園の運動会に練習は必要?」という視点でお話しします。春から続けてきた3歳児の運動遊びとお寿司屋さんごっこを重ね、子どもを行事に合わせず、日常の遊びから運動会を構成した実践例を紹介します

春から楽しんできた運動遊びと、お寿司屋さんごっこ、魚釣り

別々に走っていた遊びを一つの物語として編みあげて、
運動会では“板前が自分で魚を獲ってくるお寿司屋さん”になりました

当日、子どもたちは岩場へよじ登り、海へ飛び込み、浅瀬を渡って魚を釣りました

釣り上げた魚は、そのまま保護者席へ向かって、
「とったどー!!」と掲げます

でも、競技の順番や、次に向かう場所を、
子どもたちへ細かく覚えさせていたわけではありません

ワツキ
ワツキ

そういえば猫さんって、
「次はこっち」とか「あっちに進むよ」とか、
子どもにあまり言いませんよねぇ

猫月
猫月

そこは、“魔法”を使ってるからね
子どもたちは“そっちに行きたくなる”のさ

ワツキ
ワツキ

“魔法”ですか?
それ、ぜひ私も使ってみたいです!
それとも、猫さん専用ですか?

猫月
猫月

その気になれば誰でも使えるさ
ただ、いろいろと準備とか、
研鑽とかは必要だよねー

あなたも“魔法”を使ってみたいですか?

その魔法を考える手がかりに、
「アフォーダンス」という言葉があります
簡単に言えば、「環境が、その人にどんな行動を可能にしているか」ということです

子どもにとって、
手をかければ登れる高さの台がある
身体を低くすれば通れる隙間がある

そうした環境と、子どもの「やってみたい」が重なれば、
ひとつひとつ指示しなくても、遊びが始まります

あの運動会では、
日々の遊びで育ってきた「できること」と「やりたいこと」を、
三つの“動線”でつないでいました

今回は、子どもたちがなぜ、競技の順番を細かく覚えなくても競技ができたのか
前回の記事でお話しした「子どもを仕上げず、環境と演出を整える」の中身を、もう少し詳しく考えてみようと思います

運動会当日の競技は、子どもたちの座席から始まりました

座席から出てきたときの並び方は、場馴れの際に、
「お家の人に顔が見えるように並んでね」
と伝えていました

当日、その場所に並ぶと、子どもたちからも家族の顔が見えます

私が「ようこそ、◯◯寿司へ!」と口上を始めると、
子どもたちは板前モードになり、魚を獲りに出発します

目の前にあるのは、海辺の岩場に見立てた台
手をかけてよじ登り、海へ飛び込みます

続いて、オーガンジーの下を潜って進み、
顔を上げると、その先には家族の姿が見えます

浅瀬の岩場に見立てたリバーランドスケープでは、
足元を見ながら、落ちないように渡っていきます
渡り終えて顔を上げれば、また家族が見えます

遊んでいる間は、目の前の遊具や、自分の手元、足元へ
そこから顔を上げたときには、家族の方へ

子どもたちは、家族を見るために振り返ったり、
進む方向とは別の方へ身体を向けたりする必要がありません

遊具は、保護者席へ向かって直線上に並べていました
一つひとつの遊びを楽しみながら進むほど、家族との距離も近づいていきます

そして、最後は魚釣りです
釣り上げた魚を、
「とったどー!!」
と掲げる先には、家族がいます
競技の中で一番近い場所から、自分の獲った魚を見せられます

競技の中で、ひとつひとつの遊びをするたびに、
家族の顔が見える環境構成を心掛けました

子どもたちが進む方向と、
子どもたちの「見てもらいたい」思いが、
常に正面で重なっていたのです

もちろん、運動会当日に初めて遊具を見たわけではありません

週に2〜3回ほど、実際の会場で遊ぶ機会は設けていました
クラス全員で一斉に取り組んだ日もありますが、
当日と同じ場に、同じ順で、遊びたい子が遊べるようにした日がほとんどです

同じ場所に、同じ順で遊具があれば、
遊ぶたびに、前に遊んだ経験が次の遊びにつながります

台から降りたら、目の前にはオーガンジーがある
その下を潜った先には、浅瀬の岩場がある

子どもたちは、自分から遊びをくり返す中で、
次に何があるか、どちらへ進むかを、身体で覚えていったでしょう

私たちが用意したのは、正しい順番を覚えるための練習ではなく、
遊んでいるうちに、その流れになじんでいける環境でした

運動会には、いつもの保育にはいない大勢の観客がいます
幼児にとっては、それだけでも日常とはまったく違う環境です
緊張したり、家族の姿が気になったりして、普段ならできることができなくなる子もいるでしょう

そんな状況で、覚えてきた順番を正確に再現することまで子どもに求めれば、
その分、子どもが背負う負担は大きくなります

だから、記憶だけを頼りにしなくても、
見れば次にすることがわかり、子ども自身が進みたくなる環境を整えました

この運動会で、子どもたちを次の遊びへつないでいたもの

それを整理すると、三つの動線が見えてきます

一つ目は、空間の動線です

遊具は直線上に並び、今いる場所の先に、次の遊具が見えます
途中で折り返したり、ほかの子と交差したり、来た方向へ戻ったりする必要はありません

二つ目は、遊びの動線です

岩場から海へ飛び込み、海へ潜り、浅瀬を渡って、魚を獲る
一つひとつの運動遊びが、独立した課題として並んでいたのではありません
子どもたちが親しんできた遊びの中で、前の行動が次の行動につながっていました

三つ目は、関係の動線です

魚を釣った先には、子どもたちの家族がいます
子どもたちにとって、保護者は競技を採点する観客ではありません
自分が獲った魚を見せたい(お寿司を食べさせたい)相手です

子どもたちは、保育士に決められた順番を再現していたのではありません

目の前にある遊具で、いつもの遊びの続きを楽しみながら、
魚を見せたい(お寿司を食べさせたい)相手のもとへ進んでいたのです

三つの動線は、それぞれが別々に存在していたわけではありません

当日の会場では、岩場、オーガンジー、浅瀬、魚釣りを、保護者席へ向かう直線上に並べました

もし保護者席が子どもの背後にあれば、
魚を見せるためには、来た方向へ振り返らなければなりません

遊具が横方向に並んでいれば、
身体は横へ進みながら、顔だけを家族へ向けることになります

また、魚釣りのあとに、物語とは関係のない別の課題が置かれていれば、
子どもは「どうして次にこれをするの?」と感じるかもしれません

今回は、進行方向に次の遊具があり、
物語もその先へ続き、
見てもらいたい相手も終点にいました

空間も、遊びも、関係も、
すべてが同じ方向を向いていたのです

だから、一本道にしただけではありません
一本道の上に、子どもが進みたくなる理由を並べました

保育士が決めた順番をなぞっても、子どもたちは面白くない

子どもたちが進みたくなる方向へ、競技の動線を合わせたのです

三つの動線が、いつもきれいに揃うとは限りません

園庭の広さや形、保護者席の位置、他のクラスとの兼ね合いなど、
担任だけでは変えられない条件もあります
空間の都合でコースを折り返さなければならないこともあるでしょう

子どもが楽しんでいる物語と、運動会で見せたい運動遊びが、
うまくつながらないこともあります

そのような動線のずれは、保育士の指示として現れます
「次はこっちだよ」
「まだ行かないよ」
「そこじゃなくて、こっちに並んでね」

空間や遊びだけでは次にすることがわからないため、
保育士が言葉で隙間を埋める必要が生まれるからです

そして、その指示を聞き、意味を理解し、自分の行動を修正する負担が、
子どもへ戻っていきます

ただし、保育士がたくさん喋ること自体が、
子どもの負担になるわけではありません

当日の私も、口上や台詞でずっと喋っています(笑)

けれど、
「次は、あっちへ行って」
と正しい行動を伝える声と、
「さぁ、魚を獲りに行こう!」
と子どもの遊びを物語としてつなぐ声は、役割が違います

予定と違う方向へ進んだ子がいたとしても、
「そっちに大きなクジラでもいたのかな?」
と語れば、その行動も物語の一部になります

子どもを台本へ戻すのではなく、その子が今いる場所から物語を続ける

前回の記事で書いた「私の台詞でどうとでもなる」とは、
大人の都合通りに子どもを動かすという意味ではありません

子どもの行動を“間違い”にせず、
遊びとして意味づけ直すということです

指示する声は、子どもを正しい場所へ動かします

物語をつなぐ声は、子どもがいる場所から遊びを動かします

同じ声かけでも、その役割は大きく異なります

今回の運動会で練習が少なくても成立したのは、
子どもが進みたくなる理由が、環境構成の中にあったからです

空間の動線、遊びの動線、家族へ向かう動線

三つが同じ方向を向いていたから、
子どもたちは、いつもの遊びを辿っていくことができました

もちろん、「三つの動線を揃えれば、どんな運動会もうまくいく」という話とは違います

家族に見てもらうことより、
友だちと一緒に取り組むことが意欲につながるクラスもあるでしょう

広い園庭を思いきり走ること自体が、子どもたちの物語になることもあります

お寿司屋さんが、私たちのクラスの答えだったように、
子どもが進みたくなる理由は、あなたのクラスの子どもたちの中にあります

もし、
「次はここ」
「今度はこれ」
と、大人が順路を伝え続けなければならないのなら

子どもが覚えていないのではなく、
空間と遊びと関係の動線が、
少しずつ違う方向を向いているのかもしれません

子どもにもう一度、順番を教える前に──
次にすることは、子どもから見えているだろうか
子どもが楽しんできた遊びは、その先へ続いているだろうか
そして、子どもが進みたい理由は、どちらを向いているだろうか

運動会の会場を、子どもの立つ場所から眺め直してみる

それもまた、子どもを仕上げず、環境と演出を整えるということなのだと思います

子どもを動かす声を増やすのではなく、
子どもの面白さに共感する声を増やす

そんな運動会も、楽しいと思いますよ🐱

コメント

タイトルとURLをコピーしました