『ぼくらのようかいぼっこ』

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「ぼくらのようかいぼっこ」サムネイル。上部に作品タイトルが記されている。背景は「ここは、とかい と いなかのまん中あたりにあるほいく園。ちょっと古い団地の中にあるほいく園。名前は、『はさまほいく園』。門のとなりに、大きなかしの木が生えている。近くには川があって、森があって、ほいく園のむこうにはせの高いビルが見えて、園庭を時々タヌキの親子が通りすぎる。」という作品内の情景を描写している。 猫月のつぶやき

 ここは、とかい と いなかのまん中あたりにあるほいく園。
 ちょっと古い団地の中にあるほいく園。

 名前は、『はさまほいく園』。

 門のとなりに、大きなかしの木が生えている。
 近くには川があって、森があって、ほいく園のむこうにはせの高いビルが見えて、園庭を時々タヌキの親子が通りすぎる。

 ほいく園に通ってくる子は、ぜんぶで99人。

 本当は100人まで通えるはずなのに、なぜかいつもひとり足りない。

 でも……。

 これはないしょの話って、ようむさんが言っていた。

 ひなんくんれんの時、子どもの数を数えたら、ぜんぶで100人いたことがあったって。
 数えまちがえだって、じむしつ組の猪狩いかり先生がおこったって。
 園長先生が数え直したら、99人だったって。

 今日も、みんながほいく園にやってくる。

 子どもたちは、みんなあいさつをする。
 門の前にいつもねそべっている、シロネコに。

 何でって?

 だって、「おはよう」ってあいさつすると、「オハヨウ」って言ってくれるんだもの。

 え?きみのほいく園には、あいさつしてくれるネコは来ないのかい?

 おかしいなぁ……。

 うちのほいく園の大きい組は、ぞう組、きりん組、くじら組がある。
 3才さんから大きい組になる。
 どの組にも3才と4才と5才がいて、こういうの「たてわり」って言うんだって。

 ぞう組は廿日はつか先生、きりん組は谷中やなか先生、くじら組は沼江ぬまえ先生がたんにんだ。

 廿日先生は、よくかけっこやおにごっこであそんでくれる。
 谷中先生は、よくお手玉やけん玉であそんでくれる。
 沼江先生は、よくなわとびやてつぼうであそんでくれる。

 廿日先生は、大きい組で一番のお姉さん先生だ。
 先生たちの中で一番せがひくいけれど、足がはやくて、歌が上手で、かみを二つむすびにしてリボンみたいなヘアゴムでゆわいている。
 子どもたちから「かわいい」って言われると、「でも、アラサーだから」ってわらう。
 「アラサー」って、何だろう?

 谷中先生は、お兄さん先生だ。
 今の年長さんが赤ちゃん組の時にほいく園にやってきた。
 この間、はじめてさか上がりができた子がいたら「オムツをかえてあげてた子が、こんなに大きくなって……」ってないていた。
 谷中先生は、大人だけど、よくなく。
 ドッジボールで顔めんにボールが当たった時もないていた。
 顔めんセーフだからアウトじゃないけど、あれはいたかったと思う。

 沼江先生は、谷中先生よりお姉さん。
 せが高くて、かみが長くて、女の子たちは「沼江先生みたいになりたい」ってよく言っている。
 とくいわざは、空中れんぞくさかあがり。
 みんなが「すげー!」って言ったら、「大しゃりんもできるよ」ってわらっていた。
 門のよこにあるかしの木の、てっぺんまでのぼったこともあるんだって。
 「のぼってみせて」っておねがいしたけど、猪狩先生が「いけませんっ」って止めに来た。
 見たかったなぁ……。


 ある日、きりん組はさんぽに出かけた。

 行き先は、森の中にあるあんずの里。

 さんぽに行く時は、猪狩先生がいっしょに来てくれるんだけど、その日は赤ちゃん組の因幡いなば先生がいっしょに来てくれた。

 きりん組は、あんずの里についたらお茶をのんで、それからかくれんぼをしようということになった。

 谷中先生が先頭を歩きいていく。
 みんなは、その後をついていく。
 5才さんは、3才さんと手をつないでいく。
 4才さんは、4才さんと手をつないでいく。
 因幡先生は、ぜんいんいるか数えながら、一番後ろから歩いてくる。

「あの雲、イヌみたいじゃない?」
「えー?ネコみたいだよねー」
 歩きながら、みんなはおしゃべりを楽しんでいる。

 あんずの里は、あんずの木もあるけれど、どんぐりやまつぼっくりの木もある。
 お休みの日にあそびにくる子もいっぱいいる。
 4才さんと5才さんは、前の秋にどんぐりでお店やさんごっこをしたこともあるんだ。

 みんながかくれんぼをしていると、「あれ?」って谷中先生が言った。
 谷中先生はせをひく〜くして、うえこみの下をのぞいている。

 みんなが「どうしたのー?」って聞いたら、「ここ、あながある」だって。

 たしかに、トンネルみたいにくぐれそう。でも、小さなあなだったから「ネズミだったら通れるかも」ってだれかが言った。

「ネズミの家かな?」
「ネズミは、じめんのあなの中にすんでるんだよ」
「『おむすびころりん』でやったじゃん」
 ネズミの家ではないみたい。

「ネコの家かも」
「ネコの家は、すべり台でしょ?」
「ネコすべり台は、バスていだよー」
「シロネコの家かもよ?」

 そう言えば、さんぽに出かける時、門の前にはシロネコがいなかった。
 そうか、シロネコにはちゃんと家があるのかも。

「ちょっと、見てくる」って、谷中先生が言った。
「え?!」みんなビックリ。
「むりでしょ!」「むりむり」「先生、大人だよ!!」って、みんなが止めた。

「なせばなる、なさねばならぬ何ごとも!」
 谷中先生はよくわからないことを言って、あなに顔を入れた。顔は、入ったみたい。

「えー!入れるの?」

 谷中先生は、おなかもじめんにつけてワニみたいになって、手も足も体につけてへびみたいにうごいて、あなの中に入っていった。

「うわ……マジで入った」

 みんながぼーっとあなを見ていると、あなのむこうから谷中先生の声が聞こえた。
「みんなー!来てみて!」だって。

(行ってみたいなぁ)って思っていたら、因幡先生が「行っちゃおっか」って。

 猪狩先生は「ケガするでしょ!」って、あぶなそうなことは止めに来る。
 因幡先生は「やってみたら」って、あぶなそうなことでも止めない。

 因幡先生は『かんごし』なんだって。
 だから「ケガをしたら、手当てをしてあげるから」って言ってくれる。
 この間も、廿日先生とおにごっこをしていてころんだ子に、「がんばったメダルだね」ってばんそうこうをはっていた。

 今日は、因幡先生とさんぽでラッキーだったかも。

 みんな、じゅんばんにあなに入っていく。
 あなを通りぬけた子の「わー!」って声が聞こえてくる。

 あなを通りぬけると、そこはきりん組のへやくらいの広さがあった。
 四角くて、まわりは木にかこまれていて、小さな花がいっぱいさいている。

「ここって、何だろ?」
 みんながキョロキョロしていると、谷中先生が言った。
「ここは、あんずの里じゃないね」
 と空を指さした。
「さっき見えていた、くもがないもん」
 たしかに、イヌ?ネコ?みたいなくもがいない。
 見えたのは──大きな鳥のようなくもだった。

「ねーねー!こんなものがあったよ」って、誰かが大きな声でよんだ。
 谷中先生がすぐにそこへ行って、何かを拾った。
 それは……金のボール?

「キラキラしてるね!」
「ドッジボール?」
「なんか、かたいよ?」

 何だろう?子どもの頭くらいの大きさで、さわるとツルツルしていて、ちょっとかたい。
 でもこれ、どこかで見たことあるかも……。

「これ、ガチャじゃない?でっかいガチャ!」

 あ、そうだ。ガチャをした時に出てくる、カプセルみたいだ。

「ガチャなら、あくんじゃない?何か入ってるのかも」
「そうかもね。ほいく園にもって帰って、あけてみようか」って、谷中先生は子どもたちよりうれしそうにわらっている。

「でも、シロネコのものかもよ?」って言ったら、みんながこっちを見た。

「だって……ここ、シロネコの家かも知れないじゃん?そしたら、シロネコのガチャかもって思ってさぁ」

 みんなも、そうかも……って考えはじめた。

 たからものっぽいし、かってにもっていくのはよくないよね。
 谷中先生もそう思ったのかな、まゆ毛の間にしわを作ってむずかしい顔をしている。

 そしたら、「よし、シロネコに聞いてみよう」って谷中先生が言った。

「え?」
「シロネコに聞くの?」
「どうやって?」
「って、シロネコいないよ?」

 そう思っていると、谷中先生がネコの鳴き声を出した。

 谷中先生は、よくどうぶつの鳴きまねをする。ひつじとか馬とかカラスとか、めっちゃ上手い。
 (でも、まねでしょ?)って思っていたら、あなからシロネコが顔を出した。

「あ、シロネコが来た!」
 みんながビックリしていると、谷中先生はネコの声でシロネコとしゃべっている。
 シロネコも、たぶん、ネコ語でしゃべっている。

 谷中先生が「ありがとう」って言うと、シロネコは「にゃあ」と言っていなくなっちゃった。

「先生!シロネコ……何だって?」
「この玉、みんなにくれるって。みんなが見つけに来るのをまっていたんだって」

ニコニコしながら、ガチャをなで回す。

「マジ?」
「やったー!」
「早く帰ろー」
 みんな、谷中先生をかこんでわいわいとしゃべっている。

「よーし、ここから出るよー」
 谷中先生は、子どもたちをあなへとさそう。
 みんながあなを通っていく時、すごくうれしそうな顔をしていた。

 何となくだけど、口がネコっぽく見えた気がした。

 あなから出ると、因幡先生がまっていた。
 なぜか、因幡先生もうれしそうな顔をしている。
「みんな、いいことがあったみたいだね」

 どうしてわかるんだろう?

「見てよ、因幡先生。こんなものをみつけたんだよ!」

 さいごに出てきた谷中先生が、ガチャを見せる。
 みんなもあなの中で何があったかを、つぎつぎに因幡先生に話しはじめる。

「へー!シロネコからもらったの?」
 因幡先生はりょう手をあげておどろいている。

「ほいく園に帰って、園長先生にほうこくしよー!」
 谷中先生はそう言うと、先頭になって歩きはじめた。
 みんなもいそいで、その後をついていく。
 5才さんは、3才さんと手をつなぐのをわすれずに。
 因幡先生は、ぜんいんいるか数えながら、一番後ろから歩いてくる。

 ほいく園に帰って、みんなでじむしつへ行った。
 猪狩先生が「お帰りなさい」ってむかえてくれた。

 猪狩先生は、じむしつ組の先生。
 やくそくをまもらないとすぐにしかられるから、ちょっとこわい。
 でも、あいさつをかならずしてくれる。
 子どもがケガをすると、まっ先にとんでくる。
 ねつが出た子がいると、おむかえが来るまでずっとそばにいてくれる。
 おこりそうな顔をしていることが多いけど、わらった顔もするんだよ。

 園長先生もじむしつから出てきた。
 みんなは「ただいま」を言う前に、
「見て、見てー!」
「金のガチャがあったの」
「シロネコにもらったの!」
「みんなのであなをくぐったの」
 谷中先生のもっている金のガチャをゆびさしながら、何があったか話し出す。

 園長先生は「うんうん」「そうなの」「へー!」って、いつものようにみんなの話を聞いている。
 猪狩先生は、谷中先生の顔を見ながら口をへの字にしていた。
 でも、じむしつの電話が鳴ったから、いそいでへやへ入っていった。

 因幡先生は、ほかのクラスの子たちにかこまれている。
「因幡先生、あとで『おすくり』のみにいくね」
「『とうもころし』食べられたの!」
「コウくんと『ようかいぼっこ』のお話しよ」

 みんなの話がおわると、園長先生が「ふしぎなことがあったのね」とうれしそうにわらった。
「これ、あけていいですか?」と谷中先生が聞いた。
 園長先生は、「う~ん……」ってうなって、「玉手ばこみたいにけむりが出て、みんながおじいちゃん、おばあちゃんにならないといいけど」ってわらった。

 えー、玉手ばこ……?

「すずめのつづらみたいに、オバケが出てくるかもよ?」って、またわらう。

 けむりも、オバケも、どっちもいやだ。

「はなれてあければいいんじゃない?」って5才さんが言った。
「お昼だから、オバケだったらきえちゃうよ」って4才さんが言った。
「ガチャは、おもちゃが入ってるんだよ」って3才さんが言った。

 けむりかな…オバケかな…おもちゃかな…。

 みんなでどうしようって話していると、ぞう組とくじら組もテラスに出てきてこっちを見ていた。

「どうします?谷中先生」って、園長先生はニコニコしている。
「あける?やめる?どうする?」って谷中先生がみんなに聞く。

 あけたいけど、ちょっとこわい。

「そうだよねー。何が出てくるか分からないもんね」
 うんうんとうなずきながら、谷中先生はみんなからはなれていく。
「だから、ぼくがあけまーす!」

 そう言いながら、谷中先生が金のガチャにゆびをかける。

 みんながおどろいている間に、ガチャがパカッとあけられて……。

 かしの木の上から、シロネコがそのようすをながめながら毛づくろいをしていた。

 きりん組がさんぽで見つけてきた金の玉。
 子どもたちは、金のガチャってよんでいる。

 きりん組の谷中やなか先生がそのガチャをあけると、中には手紙が入っていた。

 手紙には、こう書かれていた。

はさまほいくえんの こどもたちへ

 わしは はさまのもりに すんでいる テングである

 みんなの げんきなこえが もりにも きこえてくるぞ

 じつは もりにすむ ようかいたちが

 ほいくえんへ あそびにいったまま かえってこぬ

 みんなで ようかいたちを さがしておくれ

 たのんだぞ

はさまのテング

「えー!テング!?」
「しかも、ほいく園にようかいが来てるって!」
「いそいでさがさなきゃ!」

「へー。ようかいが来てるのね」

 手紙を読んだ谷中先生のとなりで、廿日はつか先生と沼江ぬまえ先生がうんうんとうなずいている。

「先生!ようかいだって!」
「ようかい、さがしに行こう!」
 子どもたちは大さわぎ。そりゃそうだ、ようかいが来てるなら会ってみたいもの。

「テングが言ってたよね。ようかいたちがほいく園にあそびにきたまま、帰ってこなくなったって」
「じゃあ、今この園にようかいがいるってこと?」

 ぞう組の子どもたちは、目をキラキラさせながらあたりを見回す。

「ねえ、どんなようかいが来てるのかな?」
「テングのなかまなんでしょ?」
「からすテングかな?こっぱテングかな?」
「テングだけじゃないかも知れないじゃん」

 そのとき──
「あれ?これ、なんか…おちてる?」
 3才のコウくんが、げたばこのすみっこをゆびさした。

 そこには一まいの白い紙がおちている。
 それにはくろい線だけの絵がかかれていた。

「なんだろ、これ…?」
「なになに?!…どうぶつじゃん」
「どうぶつなの?こんなの見たことなーい」
「顔がおさるさんで、足がとらで、しっぽがへび?」

 4才の女の子が首をかしげたそのとき──

「へぇぇ、これは『ヌエ』だねー」
 と、廿日先生がのんきに言った。

「ヌエはねぇ、むかーしから日本にいるようかいよ」
「廿日先生、それウソでしょ」
「ウソじゃないわよ。むかしからいろいろな本にも出てくるのよ」

 廿日先生がえがおをけして話すものだから、聞いていた子どもたちの顔がしんけんになった。

「よし、ほかにもいるかも知れない。さがすぞ!!」
 きりん組が金のガチャを見つけてきたんだから、ようかいさがしでぞう組はまけていられない。 
 あっちにいないか、こっちにいたよと、さがす、さがす、さがし回る。

 みっちゃんが見つけたのは、しっぽがリボンのいったんもめん?
 サキちゃんは、本だなのすきまから、しっぽが二本のネコマタを見つけてきた。
 シュウくんは、げたばこのうらにはりついた、ススワタリを5ひきも!

 どのようかいも、白い紙に絵でかかれてるみたいだった。

「こういうの”ふういん”っていうのよ」
 見つけたようかいを廿日先生に見せると、そうやって教えてくれた。
「この紙は『おふだ』っていって、ようかいとかオバケとかがわるさをしないようにとじこめるの」

「これ、わるいようかいなの?」
「ようかい、こわーい」

 3才の子たちがこわがりだすと、
「わるさっていっても、イタズラくらいかもよ?」って沼江先生が言った。
「ほら、ハロウィンのオバケも言うじゃない、『おかしをくれなきゃ、イタズラしちゃうぞ』ってね」

 先生ふたりはオバケのまねをして、したをベロベローってしてわらってる。

「廿日先生!もう見つからなーい!!」
「かぞえたら、ぜんぶで20まいあったよ!」

 さがし回っていた子たちが、みんなもどってきた。
 年長さんが数え直しても、やっぱり20まい。
 ヌエと、いったんもめんと、ネコマタと、ススワタリと、カラステングにコッパテング。

「これって、どうするの?」
 あつめたのはいいけれど、はさまのテングにどうやってわたそうか。

 みんなが顔を見合わせていると、廿日先生がポンと手をたたいた。
「きっと、色をぬってあげたら『ふういん』がとけるわよ」

 それを聞いて子どもたちは、いそいでへやへもどっていく。

 ようかいたちをたすけるために、色をぬってあげるんだ。
 クレヨンがいいかな?色えんぴつかな?

 かしの木の上から、シロネコがそのようすをながめながら、のびをしていた。

 みんなで色をぬったようかいたちは、廿日先生が木でできたふたのあるはこに入れてくれた。

 ぞう組のみんながお昼ねからおきると、きちんとしめたはずのはこのふたがあいていて、中のようかいたちはいなくなっていた。

 かわりに、そこには手紙が一まい入っていた。

はさまほいくえんの こどもたちへ

 わしは はさまのもりに すんでいる テングである
 みんなの がんばっているすがたを もりから みていたぞ
 ようかいたちを たすけてくれてありがとう
 みんな ちゃんとかえってきた
 ありがとうよ

 このれいは いずれ かならずするでな
 まっておれよ こどもたち

はさまのテング

「はさまのテングから、手紙が来た!」
「先生、ようかいたちみんな帰れたって!」

 子どもたちのよろこぶ顔を見て、廿日先生もニコニコしている。

「ねーねー、『れい』って何かな?」
「ユーレイかなー」
「ゆうれいとようかいはちがうんだぞ!」

 それは『おれい』じゃないかな?と思ったけど、みんなが手紙の話でもち切りだから、言わなかった。

 廿日先生は、ポンと手をうつと、
「ようかいたちは、みんなのおかげで帰れたみたいだねー。またお手紙が来るかもしれないから、このはこはだいじにしまっておきましょう」
 と言って、はこをつくえの引き出しにしまった。

「さぁ、おやつにしましょう。食べた後は、みんなで園長先生にも知らせに行かなきゃね」
 そして、おやつのじゅんびをはじめた。

 テラスをシロネコがしずかに歩いて行ったのは、だれも気がつかなかった。

 その日、シロネコは見ていた。

  ほいく園のプールから、何かがはいでてくるのを 。

 そいつは、びちゃ、びちゃと足音を鳴らしながら──

 それは、子どもたちがくるよりも、ずっと早いあさのできごとだった。


「さぁ!今日はプールそうじの日だよ!!」

 沼江先生は、ブラシをりょうてでもちながら、うれしそうにくじら組のテラスに立っている。

 きせつはつゆ。きのうも雨がふっていたし、今日も空には雲しか見えない。
 じめじめっとした空気で、くじら組の子どもたちの顔もどんよりしている。

「先生、雨ふるよー」
「じめじめあついし、明日にしようよ」
 みんなはブツブツ言いながらプールサイドへ歩いていく。
 その前を行く沼江先生だけが、ニコニコとうれしそうだ。

「おー、今日はプールそうじだね」
 園長先生がくじら組をはげましにきた。

「園長先生!ぜったい雨ふるってー」
 くじら組がゆびさした空をながめて、園長先生はこう言った。
「雨ニモマケズ、風ニモマケズプールそうじ、がんばってねー」
「それ、宮沢賢治でしょ!お話会で聞いたもん!」 
「あら、よくおぼえてるのね」
 ほめられたって、気もちはドンヨリしたままだ。

「雨にもまけるー」
「風にもまけるー」
 ってだれかが言いはじめて、少しだけクスッとした。

「さぁ、水をながすよー!」 
 と沼江先生が水をまこうとしたとき、
「ねー!先生の足の下、何かない?」とだれかが声を上げた。

 沼江先生の足の下──何か四角いものがある。

「それ、ぞう組の木のはこじゃん?」
「ようかいのおふだが入ってたやつ?」
「廿日先生が、前にきえちゃったって言ってた!」

 ぞう組のつくえにしまっていたはずの木のはこ。
 この間の金曜日から見当たらないって話だった。

「なんで、ここにあるの?」
 みんながさわいでいると、沼江先生がはこをひろい上げた。
 プールと同じくらい、どろでよごれている。

「ふーん、ぞう組さんのようかいのはこ、ねぇ」
 沼江先生は、そーっとはこをあける。
 先生は、何かを見つけたみたい。

 何が入っているんだろう?

「これ、手紙だね」
 そういうと、先生はみんなに見せてくれた。

 はさまの みなっこの ぷーるば かしぇてもらったばって、
 きれぇに してけらんねまんまで ほっどいできてまったじゃ。
 なんも わりがった。
 おら もう やまさ けえらねばなんねきせつになってまってな、
 ほんとは あらってかえすべきだったのっしゃ。
 よがったら おらの かわりに ぷーるば きれぇに してけねべが?
 たのむすけ。 おら もぉ やまわろ さなるでな。
カッパ

 沼江先生がゆっくり読んでくれたけれど、なんて言ってるのかよくわからない。

「カッパ?」
「カッパからの手紙なの?」

 たしかに、カッパって聞こえたけど。

「それは、遠野べんみたいね」

 くじら組のざわざわが聞こえた園長先生が、ようすを見にきていた。

 とーのべん?

「とおのは、東北地方にあるのよ。冬になると雪がたくさんふるところなの」
「園長先生、お手紙わかるの?」
 みんなにじっと見つめられると、園長先生はコホンと小さなせきをしてから、

「ほいく園のみなさん、プールをかしてもらったのに、きれいにできないままほっていってしまいました。
 すみません。
 もう山に帰らなきゃならないきせつになってしまいました。
 本当はきれいにしてかえすべきだったのに。
 もしよかったら、かわりにきれいにしてもらえないでしょうか?
 おねがいします。わたしはもうやまわろになります。  カッパより」
 と手紙に書いてあることを、教えてくれた。

「うわぁ、カッパからの手紙だ!」
「こんどは、くじら組にようかいの手紙が来たんだ!!」

 沼江先生は、うれしそうにブラシをくるっと回すと、
「どうする、みんな」と聞いてきた。

「『かわりにきれいにしてもらえないでしょうか』だってよ?」 とカッパのおねがいをくりかえす。

 そりゃ、もちろん
「あらうでしょ」
「キレイにするでしょ!」
 さっきまでドンヨリしていたみんなの顔が、今は雨上がりのにわみたいにキラキラしている。

「さぁ、お水まくよー!」
 沼江先生がはりきってそうじをはじめる。

 くじら組は、それよりもはりきってプールをゴシゴシあらっていく。

 沼江先生は、顔に水がかかってめをとじた──のかな?
 そうじを見ていた園長先生は、ウインクしたような気がした。


 つぎの月曜日はプールびらき。

 年長さんたちが、みんながあんぜんに水あそびをたのしめるようにと、園長先生といっしょにしおとおさけを、プールのよすみにまいた。

 プールはきりん組からじゅんばんに入っていくから、くじら組はプールびらきの後にみずぎにきがえるんだ。

 あれ?くじら組のへやから、白いネコが出ていった?

 でも、ほかにはだれも気づいてない。 

「ねー!テーブルの上になんかあるよ!!」
 え?何かある?

 ──それって、もしかして

「「「木のはこじゃん!」」」
 と、みんながさわぎ出す。

「また手紙が入ってるのかなー。」
「テングから?カッパから?」
「いつの間におかれたんだろう。」
 などなど、みんなが口々に思ったことを言い合っていると、沼江先生がさいごにプールからもどってきた。

「うわぉ!木のはこじゃないですかっ!!」
 そう言って、さっとはこをりょうてでもつ。

「おかしいなー、わたしがへやを出る時には、何もなかったはずなのになー!」
 プールびらきをしている間に、だれかがくじら組に入っていったのかな。

 そういえば、さっき──

「さぁ、せっかくだからあけてみよう!」
 そう言いながら、沼江先生ははこをあけていく。

 あけられたはこをみんながのぞきこむと、そこにはまた手紙が入っていた。

「テングからの手紙だ」
「おれいって、なんだろう?」
 沼江先生が、はこの中から、何かを出した。

「これ、何?木?」
 先生は、ぼうのようなものをもっている。

「それ、知ってる!ママがクッキー作る時につかうよ」
「あはは!それはめんぼうだね。たしかにいてるけど」

 沼江先生は、そのぼうをてあらい場にあったたらいにつけると、ぐいっとぼうについているえだかな?を引っぱった。
 こんどはぼうを園庭へむけると、えだをぐっとおす──
 すると、ぼうの先から水がとびだした!!

「これはね、たけづつのみずてっぽうだよ」
 えー、それがみずてっぽうなの?とみんなはザワザワしている。

「スプの竹筒銃と同じじゃん!!」
 そういえばと、5才さんたちはゲームに同じようなものがあると、なっとくしている。

「さぁ、せっかくだから、プールであそんでみましょう!」
 沼江先生はみずてっぽうをデスクにおくと、みんなにきがえのじゅんびをすすめはじめる。

 今日は、みずてっぽうで思い切りあそぼう!

 くじら組のカーテンがしまると、それを見ていたシロネコは、園庭のこかげでいねむりをはじめた。

 プールびらきの後も、ようかいたちからの手紙がとどいた。
 それまではおねがいばかりだったけど、こんどはたからものさがしだ。

 きりん組は、キラキラの円ばんを見つけた。
 ぞう組は、ピカピカのベルトを見つけた。
 くじら組は、モコモコのシールを見つけた。

 さいごに、作り方を書いた手紙がとどいた。

 円ばんと、ベルトと、シールを組み合わせると──
「これ、もののけウォッチじゃん!」

 ほんものとはちょっとちがうけれど、ほいく園みんなの分のもののけウォッチができあがった。

 このウォッチ、夏まつりのお店で見せると、 買いものやゲームができるんだって。

 お店やさんをする先生たちが、「今年は、ようかいのたからものであそびましょう」って、いつもとかえてくれたんだ。

 夏まつりの日、園庭にいろいろなお店がならんだ。
 ヨーヨーつりと、わなげと、まとあてと、ジュースやさん。
 もちろん、おめんやもある。
 おめんは、谷中やなか先生が書いてくれたようかいたちの顔。
 おふだのえをまねてかいたんだって。

 もののけウォッチを見せると、どのお店でもあそべる。

 きりん組も、ぞう組も、くじら組も、赤ちゃん組も、みんなでいっしょにあそんだ。
 赤ちゃん組は、はじめてきせられたじんべえがかわいい。
 5才さんははっぴをきて、まつりのさいごに太こをたたくんだ。

 園庭に、わらい声がひびく。

 ともだちとつぎのお店へいそぐ子、買ったものをだいじにかかえている子、いっしょうけんめいに手をのばしてウォッチを見せようとする子。
 みんなが、夏まつりをさいごまでたのしんでいた。

 夏まつりがおわって、かたづけをしながら先生たちが話している。

「谷中先生!」と廿日はつか先生がよんでいる
「もののけウォッチ、ぜんぶで100こありましたよね」
「そうですよ、子ども99人分と、よびが1こ」と、谷中先生が答えた。
「そのよび、どこにあります?」

 谷中先生は、首をかしげた。
「ぼく、あずかってないですよ?」
沼江ぬまえ先生は?」
「わたしも知らないですねぇ」
「おかしいなぁ、1こあまるはずなんだけど」

 三人が顔を見合わせていると、園長先生が通りかかった。

「あの、園長。もののけウォッチのあまり、もってますか?」

 園長先生は、少し考えて──
「子どもたちピッタリにくばったはずよ?」

 かたづけのおわった園庭に、わらい声のよいんだけがのこっていた。

 園庭のはしで、白いネコがヨーヨーをころがしてあそんでいる。1こだけあまった風船ヨーヨーで。

 ここは、とかいといなかのまん中あたりにあるほいく園。
 ちょっと古いだんちの中にあるほいく園。

 名前は、『はさまほいく園』。

 門のとなりに、大きなかしの木が生えている。
 近くには川があって、森があって、ほいく園のむこうにはせの高いビルが見えて、園庭を時々タヌキの親子がとおりすぎる。

 ほいく園に通ってくる子は、ぜんぶで99人。本当は100人まで通えるはずなのに、なぜかいつもひとり足りない。

 でも……。

 これはないしょの話って、じむしつ組の猪狩いかり先生が言っていた。

 夏まつりの時、100こ作ったもののけウォッチが1こもあまらなかったって。
 かぞえまちがえだって、猪狩先生がおこったって。

 園長先生は、ぴったりくばったはずだって。

 今日も、みんながほいく園にやってくる。

 子どもたちは、みんなあいさつをする。
門の前にいつもねそべっている、シロネコに。

 何でって?

 だって、「おはよう」ってあいさつすると、「オハヨウ」って言ってくれるんだもの。

 え?きみのほいく園には、あいさつしてくれるネコは来ないのかい?

 おかしいなぁ……


 ある日、3才のコウくんが手紙を見つけた。
きりん組の本だなにおいてあったんだって。

おぬしたち きょうも げんきか?

きょうは わしらから ぷれぜんとじゃ
わしらの なまえと すがたえを
まきものに えがいてみた
そなたらの ことばだと
“ずかん”と いうのかの
わしら ようかいのことを もっとしってもらいたい
みんなで よんでおくれ
これからも たのしくあそぼうな

はさまのテング より

「まきもの?ずかん?」
「これのことかな!」

 本だなのおくに、まきものが10本あった。
 みんながあけたがるのを、5才さんたちが止めて、じむしつへもっていった。

 何かを見つけたら、園長先生に知らせる。
 これ、ほいく園でのおやくそくだよ。

「園長先生!まきものあった!」
「テングから、手紙もあった!」

 子どもたちが大きな声で知らせると、園長先生と廿日はつか先生が顔を見合わせる。

「あらあら、テングから?」
 園長先生は手紙をうけとると、読んでから、廿日先生にも見せる。
 廿日先生は、わらわないで読んでいる。

「そのまきもの、ちょっと園長先生があずかってもよいかしら?」
「えー、みんなで見たい!」
「ずかんなんでしょ!」
「まぁまぁ、ほいく園のみんなが読めるようにするから」

 みんなでよんでと、手紙にも書いてあったね。

 園長先生にまきものをあずけて、みんなは廿日先生と、へやへもどった。
「……谷中やなか先生かしら?」
 園長先生のひざの上で、シロネコはのどをコロコロ鳴らしている。

 きりん組が園庭であそんでいる時間──
 谷中先生はいつも園庭のはしにいる。
 そして、そこにどうぶつがよってくる。

 今日はまわりにカラスがあつまってきて、うれしそうに何かしゃべっている。

 この間はシロネコともしゃべってた。
 夏まつりのあと、風船ヨーヨーをあげたのは谷中先生だったんだって。

 猪狩先生は、わらってもいないおこってもいない顔で谷中先生を見ている。

「あの猪狩先生も、谷中先生をちゅういするのあきらめてますもんね」
「ほら、かれは“ムテキの人”だから」って、
廿日先生と沼江ぬまえ先生がくすくすわらってた。
 “ムテキの人”ってなんだろう?

「せんせー!サッカーしよー!!」。
「はーい、今行くねー」
 谷中先生はカラスにバイバイをして、みんなとサッカーをはじめる。

「先生、カラスとしゃべってたの?」
「そうそう、テングのおつかいに来たってさ」
「テング?!」
「そう、テング」

 谷中先生がカラスから聞いた話──

「あそびにおいでだって!」
「みんなで行こう!」
 みんなが話し合うのを、先生たちはニコニコしながら見ている。

「じゃあ、今年の遠足は挾間山に行こうか」
「やったー!!」
 ようかいに会える遠足?すごいことがおこりそう!


 挾間山は、ほいく園からずっとむこうにある。

 とちゅうにパンやがあって、ゆうびんきょくがあって、はしをわたって、木のかいだんをのぼると山の上につく。
 むかしむかしは、おしろがあったんだって。
 今は、どんぐりがとれる木と、こいがおよぐ池がある。

「さぁ、ついたよ。リュックはしいたシートにおいてー」
 いっぱい歩いて、やっと山のてっぺんについた。

「先生、ヤマワロたちに会えるかなぁ」
「どうだろうねぇ。さがしに行ってもよいけど、先生たちが見えないところには行かないでね」
 みんなは、はーい!とへんじをしてどんぐり林に入っていく。

 ほいく園から歩いてくるとちゅう、みんなはこんな話をしていた。
「ヤマワロたち、冬になるから“とうみん”するんだって」
「“とうみん”する前に、いっぱいごはんを食べたいんだって」
「だから、どんぐりがたくさんほしいんだって」

 みんなは、どんぐりをあつめていく。
しいのみ、とちのみ、まんまるのくぬぎもある。

「このどんぐり、どうするの?」
「池の中にあながあるから、そこに入れればいいんだって」
 こいの池に、大きくへこんだあなを見つけた。
 ままごとのボウルを大きくしたようなあなだった。

 だれかがどんぐりをなげたら、ボチャンと鳴って、池のこいがジャンプした。
「こいがびっくりするから、池にものをなげちゃダメよー!」って沼江先生が大きな声で知らせる。
 これは、こっそり入れなきゃいけないみたい。

 みんなでどんぐりを入れるとボチャンとなるから、あつめる人とあなに入れる人にわかれよう。
 先生たちにどんぐりあつめが気づかれないようにと、あっちでおにごっこをはじめた子たちがいる。

 廿日先生はあしがはやいから、みんなどんどんつかまってる。
 なんとか、ぜんめつする前にどんぐりがあつまりおわった。

 これで、ようかいたちがおなかいっぱいになるといいなぁ。

「おーい!みんな、おべんとうにするよー」
 谷中先生が子どもたちにこえをかけて回ってる。

 山の上では、大きな鳥がくるりとわをえがいていた。


 おべんとうもおわって、もう少しだけあそんだら、ほいく園へ帰る時間になる。
 先生たちは、大きなシートをたたんでかたづけをはじめていた。

「ねぇねぇ……ヤマワロは、何かくれるのかな?」
「“おれい”の話は、なかったよねー」
 みんながリュックをせおった時、つめたい風がピューッとふいた。

「うわぁ、もうすぐこがらしがふくかもね」
 ぼうしをおさえながら、沼江先生が言う。
 おちばがカサカサっとなって、くるくる回っている。

 そのはっぱが止まった時、3才のコウくんがゆびさした。

「あれ──雪だるま!」
 はっぱは、ふたつ丸をつんだようにならんでいた。
 右と左にはえだがおちていて、小さな丸の中には目とはなに見える石があった。

「ヤマワロからの“おれい”って──」
 雪だったらいいのにねー、って話しながら、みんなはほいく園まで歩いていった。

 遠足がおわったあと、つぎの日にはこがらしがふいた。
 沼江ぬまえ先生の言った通りになった。

 こがらしがふくと、もうすぐ冬が来るんだって。

 園長先生は、むかし話をたくさん知っている。
 テングやカッパのお話もするし、
 雪の中でくらすようかいのお話もする。

 お話を聞いたあとは、なんだかぐっすりおひるねできる気がするんだ。


 ある日のおひるねの時間。
 トイレへ行った子が、先生たちのコソコソ話が聞こえたって。

「遠足もぶじにすんで、つぎは冬のおたのしみ会ですね」
「どうします?また、ようかいをよびます?」
「うーん……“とうみん”ってことで、そろそろおわかれってかんじですか?」

 ようかいと、おわかれ?

「そういえば聞いたよ。遠足の帰りのてんこで、ひとり多くかぞえまちがえんだって?」
「数え直したら、ちゃんと合ってましたよ」

 先生たちは、くすくすわらいながら、じむしつへ入っていった。

 ようかいたちが とうみん するって、ヤマワロも言ってたっけ。

 でも、おわかれって、どういうことだろう?


 冬のおたのしみ会の日がやってきた。

 その日のあさもシロネコにあいさつすると、「おあーお」っていつものようにへんじをしてくれた。

「ねぇねぇ、今日ってみんなにいいことある?」って聞いたら、だまってしっぽをフリフリしていた。 とっても早くゆらすので、しっぽがふたつに見えた。

 みんながまっているのは、もちろんサンタクロース!
 でも、その日にとどいたのは、プレゼントだけじゃなかった。

「ゆき!雪がふってきたよ!」
「ほら、やっぱり“おれい”は雪だったんだ!!」

 きのうまでは雲ひとつなかったのに、けさになってきゅうに空がどんよりとはいいろになった。
 先生たちは「こんなきゅうに天気がかわるなんて」ってふしぎがってた。

 みんなだけが知っていた。
 これはようかいたちからの“おれい”だって。
 遠足の帰りに見たのは、雪だるまの絵だったんだから。

 雪のふる空を見上げると、大きな鳥がくるりとわをえがいていた。

 雪はいっぱいふって、みんなは雪あそびをたのしんだ。
 サンタクロースには会えなかったけれど、子どもたちはみんなえがおだった。
 ほっぺをまっかにしながら、雪がっせんをしたり、雪だるまを作ったりした。

 谷中やなか先生はいっしょに園庭へ出てきてくれたけど、はしっこからみんなのあそびをながめている。
 先生の足に、シロネコが顔をすりすりしていた。

「先生、ないしょだよ。この雪、ヤマワロの“おれい”なんだよ」
 赤ちゃん組のへやから外を見ていた因幡いなば先生に、だれかがこっそり教えた。

 先生は「へぇ!」っておどろいた声を出しながらわらっている。
「みんながずっと、ようかいたちにやさしくしてきたからだね」

 でも、だれもようかいに会ったことはないんだよね。
「どうかなぁ。会ったことがあっても、きづかなかっただけかもよ?」
 だって、ようかいなんだから。

 因幡先生は、雪であそぶみんなのことをうれしそうな顔でながめていた。


 冬休み前のおもちつき。ほいく園にかざる かがみもち を園長先生が作るんだ。

 むかしは、みんなでおもちをたべたんだけど、今はダメなんだって。
 小さい子たちにおもちはあぶないから、って。

 みんなは、きねをかしてもらって、ぺったんぺったんとおもちをつく。
 ほいく園で食べられなくても、おもちをつくのはたのしい。
 こういうのを“ふうぶつし”って言うんだって。

 みんなでついたかがみもちは、ほいく園のげんかんにかざった。
 5才さんが、園長先生とかどまつをかざる。

 これで、おしょうがつのじゅんびができあがった。

 冬休み前、さいごのほいく園の日。

 園庭であそんでいると、園長先生が出てきてみんなをよんだ。

「テングから、手紙がとどいたわよ!」
 こんどの手紙は、ポストにとどいてたんだって。

はさまほいくえんの こどもたちへ わしは はさまのもりに すんでいる テングである ふゆも ふかまってきたな わしらは そろそろ とうみんをする あたたかい はるまで みんな ぐっすり ねむるんじゃ せわになったな こどもたち

「やっぱり、ようかいは“とうみん”しちゃうんだぁ」
「また、あそびにきてほしいねー」

 みんながざんねんがっていると、ぴゅーっと強い風がふいた。

 風が止まると、ふしぎなことに、みんなのげたばこに紙が入っていた。
 99人のげたばこに。

「これ、ようかいのおふだじゃない?」
 ぞう組がさがしたあのおふだと同じ、ようかいの絵がたくさんあった。

「冬休みに、いろぬりしてあそんでってこと?」
「はさまのテングから、プレゼントだ!」

 よろこぶみんなの後ろで、園長先生が谷中先生のそでをつかんでいる。

「……これ、先生ですか?」
「ぼくも知りませんよ……」

 ふたりはひそひそ話をしていたけれど、子どもたちはだれもきづかなかった。

 じむしつでは、園長先生のいすの上でシロネコがしっぽをゆらしていた。


 おしょうがつやすみもおわったある日、ちょっとしたさわぎがおこった。

 じむしつにいた谷中先生と沼江先生を、年長さんの何人かがかこんでいる。

「先生たち、ウソをついてるでしょ!!」
 年長さんの何人かが、きづいたんだって。

「ようかいはとうみんしてるはずなのに、どうしてせつぶんにおにがくるの?!」
「おにだって、ようかいでしょ!」
 まふゆなのに、先生たちのおでこはあせでぬれている。
「ようかいの手紙がウソか、せつぶんにくるおにがウソか、どっちかのはずでしょ!!」
 先生たちからはオロオロという音が聞こえてきそうだった。

「答えてくれないんだ」
「いいよ、せつぶんがくればわかるから」
「おにがきたら、てがみがウソだし、おにがこなかったら、せつぶんがウソだもんね」

 5才さんたちは言いたいことを言うと、じむしつからクラスへ帰っていった。

「ど、どうしましょ~?」
 谷中先生と沼江先生は、二人で同じことをつぶやいた。

「へぇ、みんなはよくきづいたわね」
 赤ちゃん組のてつだいをしながら、年長さんは因幡先生におにの話をしていた。
 因幡先生は、うなずきながら年長さんの話を聞いている。

「だってさ、先生たちといる時しか、ようかいこないんだもん」
「冬休みに公園や挾間山にも行ったけど、ようかいたち出てこないし」

 5才さんは、先生たちがあやしいと思っている。
 因幡先生はまじめな顔で話を聞いている。
 まじめすぎて、なんだかちょっとおもしろい。

「まぁ、みんなの言う通り、せつぶんになればわかると思うよ」
 因幡先生はえがおになると、おてつだいありがとうと年長さんたちをおくりだした。

「いなばせんせ、エベレーターできた!」
「ヘリポクターもつくったの、みて」
「ようかいぼっこのお話してー」
 あつまってきた赤ちゃん組のあたまをなでながら、先生はくすっとわらってから、あそびはじめた。

 そしてせつぶんの日。

 おには──

 来た!

 来たんだけど
 おもしろいおにだった。

 赤おにと青おにがやってきて、「ないたあかおに」の紙しばいをみんなに見せた。
 やさしいおにって言いたかったみたい。
 おしりをフリフリして、ほいく園中をおどりまわって帰っていった。
 こしみのの下には、トラがらのパンツをはいていた。
 シマシマじゃなくて、トラの顔のパンツだった。

 おにたちは、自分たちで やいかがし をげんかんにはって、バイバイしながら帰っていった。

「みんながいい子だから、やさしいおにがきたんでしょう」って廿日先生が言ってた。

「ようかいは、とうみんしてるんじゃないの?」って年長さんが聞いたら、
「せつぶんはね、『明日から春』ってことなのよ」って教えてくれた。

 そうか、明日はもう春なんだ。

「だから、もうようかいたちもおきてくるんだね」
「テングたちも、あそびに来るかなぁ」

 ほいく園に春がやってくる。

 春が来たら、5才さんたちは小学校へ行くんだ。
 ほいく園をそつえんして、小学生になるんだ。

 その日は、5才さんのそつえんしきだった。

 いつもとちがう、かっこいいふくやオシャレなふくをきて、何だか顔もビシッとして見える。
 でも、お母さんお父さんといっしょの時は、いつもよりかわいい顔でわらってる。

 みんな、4月からは小学生になるんだよね。
 小学校へ行っても、みんなのこと、おぼえていてくれるかなぁ。

「園長先生、みなさんがあつまりました」
 因幡いなば先生がじむしつへよびにくる。

 園長先生も、因幡先生も、会社へ行くようなふくをきている。

「今年は、にぎやかな1年だったわ」
 園長先生は、立ち上がってえりをなおす。
「あなたが園児えんじだったころも、なかなかにぎやかでしたね?」

「そうですね。わたしも“ようかいぼっこ”にたのしませてもらいました」
 因幡先生は、園長先生のあとを歩きながらやさしくわらっている。

「さぁ、そつえんじをみんなでおいわいしましょう。きっとかれらも、みまもっていてくれるわ」


谷中やなか先生……わたしたち、何を見てるんでしょうか」

 みんなの目の前には、まんかいのさくらがあった。
 みおくられるために出てきた5才さんたちは、うれしそうに園庭をかけ回っている。

「あさは、さいてましたっけ?廿日はつか先生」
「半分くらいだったよ……ねぇ、沼江ぬまえ先生?」
 はしゃぐ子どもたちと、ぼーっとさくらの木を見上げる先生たち。

 そこをびゅーっと、風がふきぬけた。

 さくらの木がバサバサーっと鳴って、花びらがはらはらとおちてくる。
 おちた花びらが、園庭のまんなかにもようを作って、
 それは「おめでとう テング」と読める気がした。

 5才さんたちは、「また、ようかいたちがきてくれた!」と大よろこびしている。

 さくらの木の上では、シロネコがしっぽをふりながらいねむりをしていた。

 そつえんしきがおわって、5才さんは学校へ行くし、
 ほかの子たちも、もうすぐ“ひとつ大きく”なる。

「何してあそぶ?」
「ぼく、ようかいぼっこがいい!」
「なら、おれはテング!」
「わたしは、カッパ」
「ネコマタも、いーれーて」

 でも、みんなはあまり気にしてないみたい。
 今日も、いつものようにたのしそうにあそんでいる。

「ねぇねぇ、因幡先生」
 3才のこうくんが、すな場にいた因幡先生に声をかけた。
「ぼっこくんも、そつえんするの?」

 こうくんのかたをポンとたたいて、先生はわらって答える。
「ぼっこくんは、まだいるわよ。きっと、ずっとみんなとあそんでくれるわよ」

 じむしつの中で、園長と猪狩先生が話している。

「そつえんしきのさくら、ふしぎなこともあるものですね。園長先生」
「大人が本気であそぶほいく園だから、ようかいも来るのかもねぇ」
 園長先生はパソコンをうちながら、猪狩いかり先生にへんじをした。

「因幡先生、うちのそつえんじなんだけど、子どものころにあそんだそうよ。“ようかいぼっこ”と」
「ようかいごっこですか?」

 猪狩先生は、おこっているでもわらっているでもない顔をして、園長先生の話を聞いている。

「“ようかいぼっこ”は、ざしきわらしの遠野でのよびかたよ」
「ざしきわらし、ですか?」

 園長先生はトンっとキーをおすと、まどから園庭に目をむける。

「うちの園にえがおがあふれてるのは、ざしきわらしのおかげかもね」

 ここは、とかいといなかのまんなかあたりにあるほいく園。
 ちょっと古い団地の中にあるほいく園。

 名前は、『はさまほいく園』。

 門のとなりに、大きなかしの木が生えている。
 近くには川があって、森があって、ほいく園のむこうにはせのたかいビルが見えて、園庭を時々タヌキの親子が通りすぎる。

 ほいく園に通ってくる子は、ぜんぶで99人。

 本当は100人まで通えるはずなのに、なぜかいつもひとり足りない。

 でも……。

 これは内しょの話って、用むさんが言っていた。

 ひなんくんれんの時、子どもの数を数えたら、ぜんぶで100人いたことがあったって。
 かぞえまちがえだって、じむしつ組の猪狩先生がおこったって。
 園長先生が数え直したら、99人だったって。

 今日も、みんながほいく園にやってくる。

 子どもたちは、みんなあいさつをする。
 門の前にいつもねそべっている、シロネコに。

 何でって?

 だって、「おはよう」ってあいさつすると、「オハヨウ」って言ってくれるんだもの。

「オハヨウ、ざしきわらしや。もうすぐ新しい子どもたちがやってくるのぅ」
「ネコマタさんも、たのしみでしょ?テングさんも、たのしみだって。」
「カッパも山から帰ってくるしのぅ。また、にぎやかになるのぅ」

 シロネコはふたつあるしっぽをうれしそうにゆらしながら、かしの木をのぼっていった。

 え?きみのほいく園には、あいさつしてくれるネコは来ないのかい?

 ぼくらのほいく園へおいでよ。

 “ようかいぼっこ”たちとあそべるほいく園だよ。

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